
朝日新聞出版は2026年11月1日、望月衣塑子氏と内田樹氏の共著『常識なき世界を生き延びるために』について、紙・電子版ともに出荷・販売を中止し、書店在庫を回収すると発表しました。
理由は、本文で紹介した「日本中学生新聞」の川中だいじ氏に関する内容に、複数の事実関係の誤りが確認されたためです。朝日新聞出版は、編集過程での点検が不十分だったとして謝罪し、原因調査と本全体の再点検を進めています。
TBSによると、同書は約2万部刊行されており、このうち書店在庫など約8000部を回収する予定です。
『常識なき世界を生き延びるために』とは?
『常識なき世界を生き延びるために』は、思想家の内田樹氏と東京新聞記者の望月衣塑子氏による対談本です。
朝日新書として2026年9月11日に発売され、定価は990円、248ページ。
政治・社会・メディアなどをテーマに2人が議論する内容となっています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 書名 | 常識なき世界を生き延びるために |
| 著者 | 内田樹・望月衣塑子 |
| 出版社 | 朝日新聞出版 |
| 発売日 | 2026年9月11日 |
| 定価 | 990円 |
| 発行部数 | 約2万部と報道 |
| 回収予定 | 書店在庫など約8000部 |
| 対応 | 紙・電子版とも出荷・販売中止 |
回収理由は川中だいじ氏に関する事実誤認
回収の直接的な理由は、「日本中学生新聞」を創刊した川中だいじ氏について書かれた内容に、複数の誤りがあったことです。
朝日新聞出版は川中氏から指摘を受けて事実関係を確認し、実際に誤った記載があることを認めました。
公式の商品ページでは、215ページ、217ページ、239ページについて具体的な訂正内容が掲載されています。
報道では、誤りは4か所とされています。
どこが間違っていた?誤記4点を解説
具体的に何が問題だったのでしょうか。
1.川中氏が「老害」と呼ばれたという記述
215ページには、川中氏が周囲の子どもから「老害」と呼ばれていたという趣旨の記述がありました。
しかしこれは事実ではなかったとして、該当部分そのものが削除されました。
川中氏本人も、そのように呼ばれた事実はないと指摘しています。
2.望月衣塑子氏の「息子」の話とされた部分
同じ215ページでは、望月氏が自分の中学生の息子について話しているように記載された部分がありました。
しかし実際には、川中氏についての話だったことが判明。
朝日新聞出版は、主語を「望月氏の息子」から「川中氏」に訂正しています。
人物そのものが入れ替わって掲載されていたことになります。
3.「ぶら下がり取材」という表現
217ページには、川中氏が政治家への取材について「ぶら下がり」で質問したという趣旨の記述がありました。
これについても事実と異なっていたため、朝日新聞出版は「ぶら下がり」という部分を削除しています。
4.「日本中学生新聞」を創刊した経緯
最も大きく訂正されたのが239ページの記述です。
当初の本には、
川中氏が小学生時代に政治に関する壁新聞を学校へ張り出して教師にはがされた
外務省へ取材しようとして断られた
それをきっかけに日本中学生新聞を始めた
という趣旨の内容が掲載されていました。
しかし、これらの経緯は事実ではありませんでした。
朝日新聞出版が掲載した訂正版では、
小学生時代は学校の新聞委員会で新聞を作っていた
選挙時には政党の政策などとともに投票を呼び掛ける内容を書いた
2023年のG7広島サミットへ取材申請するため「日本中学生新聞」を創刊した
という内容へ変更されています。
つまり、創刊に至るストーリー自体が大幅に異なっていたことになります。
誤りは望月衣塑子氏の発言部分だった?
J-CASTニュースによると、今回訂正された川中氏に関する内容はいずれも、対談本の中で望月衣塑子氏の発言として掲載された部分でした。
ただし、現段階では、
望月氏が実際の対談でどこまでその内容を話したのか
編集段階でどのような整理・加工が行われたのか
校正・校閲でなぜ誤りを発見できなかったのか
について、すべての経緯が確定したわけではありません。
朝日新聞出版も原因について現在調査中としています。
そのため、「望月氏がすべて意図的に作った」「出版社だけが誤った」といった責任関係を現時点で断定することはできません。
川中だいじ氏本人が事実誤認を指摘
問題が表面化するきっかけとなったのは、川中氏本人からの指摘でした。
J-CASTニュースによると、川中氏は10月17日に版元へ連絡。
その後、自身のXでも、望月氏が自身について語った内容の多くが事実と異なっているとして、訂正を求めていたことを明らかにしています。
川中氏は特に、学校の先生や同級生に関する事実ではない内容まで掲載されたことにショックを受けたと説明しています。
朝日新聞出版はなぜすぐ回収しなかった?
朝日新聞出版は当初、訂正対応を進めていました。
10月末には公式サイトでお詫びと訂正を掲載し、電子版を修正する手続きに入ると説明。
しかしその後、11月1日になって方針を変更し、電子版を含めて出荷・販売を全面中止し、紙の書籍も回収することを決めました。
出版社自身も、川中氏から訂正の申し入れを受けてから回収方針を決めるまでに時間がかかったことについて謝罪しています。
朝日新聞出版は「編集時の点検不足」を認める
朝日新聞出版は今回の原因について、
編集作業の過程での点検が不十分だった
と説明しています。
さらに今後は、
資料との照合
著者への確認
複数の視点からのチェック
など、事実確認と校閲作業を徹底するとしました。
一方で、「なぜこれだけ複数の誤りを見逃したのか」という詳しい原因については、まだ社内調査中です。
望月衣塑子氏は謝罪
望月衣塑子氏も、今回の誤記について謝罪しています。
J-CASTニュースによると、望月氏は10月28日にXで、事実とは異なる記述を公表してしまったことについて謝罪し、出版前に一つずつ内容を十分確認すべきだったとの趣旨を述べました。
また、川中氏に対して編集者を通じ、直接謝罪して説明する機会を求めていることも明らかにしています。
11月1日には自身の配信でも改めて謝罪したと報じられています。
内田樹氏も「ゲラで気付かなかった」と謝罪
共著者の内田樹氏も10月28日、Xで今回の問題について謝罪しました。
J-CASTニュースによると、内田氏は原稿のゲラを確認した段階で誤りに気付かなかったことについて謝罪しています。
ただし今回訂正された箇所については、望月氏の発言として掲載されていた部分です。
内田氏が誤った情報の作成に直接関与したとの情報は確認されていません。
なぜ本そのものを回収するほどの問題になった?
単純な誤字脱字であれば、正誤表や次回増刷時の修正で対応するケースもあります。
しかし今回は、実在する人物について、
学校での出来事
同級生との関係
取材経験
新聞を創刊した理由
など、人物像や過去の経験そのものに関わる複数の事実誤認がありました。
朝日新聞出版は「事実関係の誤りで川中氏を傷つけたことを重く受け止めている」とし、部分訂正ではなく回収へ踏み切りました。
紙の本はどうなる?書店から約8000部回収
朝日新聞出版は書店などに残っている紙の書籍について、返品対応を依頼しています。
TBSによると、刊行された約2万部のうち、書店在庫など約8000部が回収対象になるということです。
したがって、現在書店に残っているものについては順次店頭から下げられるとみられます。
電子書籍も販売停止
回収対象は紙だけではありません。
朝日新聞出版は、電子版についても販売を中止することを決めました。
各電子書籍ストアへ順次販売停止を要請しています。
10月末時点では電子版を修正する方針でしたが、その後11月1日に販売自体を中止する対応へ変更されています。
すでに本を買った人は返金される?
2026年11月2日時点で、朝日新聞出版の公式発表には、すでに購入した読者への返金・交換方法は記載されていません。
公式に示されているのは、
書店在庫を回収する
書店などへ返品を依頼する
電子書籍の販売を中止する
という対応です。
購入済みの紙の本を出版社へ送れば返金されるのか、電子書籍購入者に返金措置があるのかなどは未発表です。
現段階では、購入店や出版社からの追加案内を待つ必要があります。
訂正版は再発売される?
こちらも2026年11月2日時点では、訂正版の再刊行や販売再開日は発表されていません。
朝日新聞出版は原因を調査すると同時に、書籍全体をもう一度点検するとしています。
そのため今後、
訂正版として再刊行する
内容を大幅に修正して再発売する
販売中止を継続する
など、どの対応になるかはまだ分かりません。
望月衣塑子・内田樹の共著回収をまとめると
『常識なき世界を生き延びるために』が回収される最大の理由は、川中だいじ氏に関する記述に複数の事実誤認があったためです。
具体的には、
川中氏が同級生から「老害」と呼ばれていたという誤った記述
川中氏の話を望月氏の息子の話として掲載
取材方法についての誤った表現
日本中学生新聞の創刊経緯についての大幅な事実誤認
などが訂正されています。
朝日新聞出版は編集時の点検不足を認め、11月1日に紙・電子版とも出荷・販売を中止。約8000部の書店在庫を回収する方針です。
望月衣塑子氏と内田樹氏もそれぞれ謝罪しています。
一方、2026年11月2日時点では、
誤りが生じた詳しい原因は調査中
購入済み書籍の返金・交換方法は未発表
訂正版の再発売予定も未発表
です。
今後は、朝日新聞出版が行う原因調査で対談・編集・校閲のどの段階で事実と異なる内容が生まれ、なぜ出版前に確認できなかったのかが明らかになるかが焦点になります。

