
藤枝MYFCの槙野智章監督が、徳島ヴォルティス戦での判定を巡る発言により、2試合のベンチ入り停止と罰金10万円の処分を受けました。
ところが、その処分が発表された2026年10月29日、日本サッカー協会(JFA)の扇谷健司審判委員長は、槙野監督が強く抗議した場面について「ハンドと判断すべき事象」だったとの見解を示しました。
つまり、槙野監督が「ハンドではないか」と訴えたプレーについては、結果的にJFAも判定が誤っていたと認めたことになります。
それでも槙野監督への処分はなくなっていません。
なぜ誤審だったのに、抗議した槙野監督が2試合のベンチ入り停止となったのでしょうか。
ポイントは、「ハンドだったかどうか」と「監督が審判員をどのように批判したか」は、別々に判断されていることです。
槙野監督の抗議は正しかったのか、何があったのか、処分理由や取り消しの可能性、J2にVARが導入されていない理由、今後の藤枝MYFCへの影響まで紹介します。
槙野智章監督の抗議は正しかった?JFAがハンドの誤審を認める
結論からいうと、「この場面はハンドではないか」という槙野智章監督の指摘については、JFA審判委員会の見解と一致しました。
JFAの扇谷健司審判委員長は10月29日のメディアブリーフィングで、問題となったプレーについてハンドと判断すべきだったと説明。
さらに、審判員が正しい判定を導き出せなかったとの見解を示しています。
藤枝MYFC対徳島ヴォルティスで何があった?
問題が起きたのは2026年10月24日に行われた明治安田J2リーグ第13節、藤枝MYFC対徳島ヴォルティス戦です。
試合は徳島が前半28分に高木友也選手のゴールで先制。
藤枝が0-1で追う後半24分ごろ、川本梨誉選手が徳島のペナルティーエリア内でボールを浮かせると、徳島DF田中隼人選手の左腕付近にボールが当たりました。
しかし、俵元希主審はハンドを取らず、PKとはなりませんでした。
槙野監督はベンチ前で強く抗議。
その結果、異議によるイエローカードを提示されています。
試合はそのまま0-1で終了し、Jリーグ公式記録でも徳島の勝利となっています。
扇谷健司審判委員長が「正しい判定を導き出せなかった」
その5日後となる10月29日、JFA審判委員会の扇谷健司委員長が問題の場面について見解を示しました。
JFA側が映像などを確認した結果、このプレーについてはハンドと判断すべきだったとしています。
つまり、ハンドを取らなかった現場の判定について、JFA側が誤りだったと認めた形です。
槙野監督が試合中に訴えていた「ハンドではないか」という点そのものについては、結果的に監督側の認識がJFAの見解と一致したことになります。
槙野智章監督はなぜ2試合ベンチ入り停止?誤審とは別問題
ここで最も疑問に感じるのが、「JFAが誤審を認めたのに、なぜ槙野監督が処分されるのか」という点でしょう。
理由は、槙野監督が処分された対象が「ハンドを主張したこと」そのものではないからです。
Jリーグ規律委員会が問題視したのは、試合中の抗議に加えて、試合後の公開インタビューで審判員に対する批判を繰り返したことでした。
試合後インタビューで審判レベルを厳しく批判
槙野監督は徳島戦終了後、DAZNのフラッシュインタビューで判定への不満を表明しました。
ハンドを取らなかった判定を皮肉る発言に加え、J2の審判員のレベルを強く批判し、レフェリング環境を改善しなければリーグに悪影響が出るとの考えを語っています。
単に「あの場面はハンドだったと思う」と意見を述べたというより、審判員全体のレベルにまで踏み込んだ厳しい表現でした。
Jリーグは「審判員の判定に対する悪質な抗議」と判断
Jリーグ規律委員会は、槙野監督の試合後の言動をJFAの懲罰基準にある「審判員の判定に対する悪質な抗議」に該当すると判断しました。
この項目では最低1試合の出場停止が定められています。
さらに槙野監督は、
- 試合中にも異議で警告を受けていた
- 試合後の一般公開されるインタビューで審判批判を繰り返した
- 審判員へのリスペクト精神に著しく欠けると判断された
ことが加重要素となり、1試合が追加されました。
その結果、2試合のベンチ入り停止と罰金10万円になっています。
「抗議は正しかった」のに処分されるのはおかしくない?
今回の出来事では、「槙野監督の言っていたことは正しかったのだから、処分するのはおかしいのでは?」という疑問も生まれます。
ここは2つの判断を分けると理解しやすくなります。
ハンドについての主張はJFAの見解と一致
まず、プレーそのものについてです。
JFA審判委員会は、問題の場面を「ハンドと判断すべき事象」としています。
したがって、「あの場面ではハンドを取るべきだった」という槙野監督の主張は、後日のJFA見解と一致しました。
「J2の審判レベルが低い」という批判まで認められたわけではない
一方、JFAが認めたのは今回の特定の判定が誤っていたという点です。
槙野監督が試合後に行ったJ2審判員全体への批判まで、「正しい発言だった」とJFAが認定したわけではありません。
審判のミスがあった事実と、公開の場でどこまで審判員を批判してよいのかは別問題です。
そのため、
「判定への問題提起」=JFAもハンドと認定
「試合中・試合後の抗議方法」=規律委員会が処分対象と判断
という二つの結論が同時に成立しています。
槙野智章監督の発言は「暴言」だった?
一部報道では、槙野監督の発言について「暴言」という表現も使われています。
ただし、藤枝MYFCが公表したJリーグ規律委員会の正式な処分理由では、「暴言」という言葉ではなく「審判員に対する不適切な発言」「審判員の判定に対する悪質な抗議」とされています。
そのため、公式な処分内容を説明する場合は「不適切な発言」「悪質な抗議」とする方が正確です。
槙野智章監督の処分内容は?罰金10万円と2試合停止
Jリーグが決定した槙野智章監督への処分は次の通りです。
| 処分 | 内容 |
|---|---|
| ベンチ入り停止 | 2試合 |
| 罰金 | 10万円 |
| 10月31日 | ブラウブリッツ秋田戦でベンチ入り不可 |
| 11月3日 | ジュビロ磐田戦でベンチ入り不可 |
| 代行 | 太田吉彰ヘッドコーチ |
Jリーグ公式でも、槙野監督が10月31日と11月3日の2試合で出場停止となることが公示されています。
処分は11月3日の磐田戦まで
ベンチ入り停止の対象は、
10月31日 ブラウブリッツ秋田対藤枝MYFC
11月3日 藤枝MYFC対ジュビロ磐田
の2試合です。
追加処分などがなければ、今回の処分は11月3日の磐田戦をもって消化することになります。
太田吉彰ヘッドコーチが暫定的に指揮
槙野監督がベンチ入りできない2試合では、太田吉彰ヘッドコーチが暫定的にチームを指揮します。
藤枝MYFCが公式に発表しています。
槙野監督にとっては、シーズン途中で重要な2試合をベンチ外から見守ることになります。
槙野智章監督の処分取り消しはある?不服申立ては可能
「JFAが誤審だったと認めたなら、処分は取り消されるのでは?」と考える人もいるでしょう。
結論として、JFAがハンド判定の誤りを認めたことだけで、自動的に槙野監督の処分が取り消される仕組みではありません。
ただし、JFAの懲罰規程にはJリーグが科した処分について不服申立てを行う制度があります。
Jリーグの処分は不服申立ての対象
JFA懲罰規程では、Jリーグが科した懲罰については不服申立委員会で再審議できると定められています。
通常は2試合以下の停止などが不服申立ての対象外となる規定がありますが、Jリーグが科した懲罰については例外として、すべての事案で不服申立てが可能です。
不服申立委員会は、事実認定と規程の適用の両方を再審議できます。
申し立てても処分は自動的に止まらない
一方、不服申立てを行えば秋田戦や磐田戦にすぐ戻れるわけではありません。
JFA懲罰規程では、不服申立てそのものには元の処分を中断する効果はないと定められています。
さらに、原則として処分の通知を受けた日から7日以内に不服申立ての意思を通知し、14日以内に理由を提出する必要があります。
2026年10月30日時点では、槙野監督や藤枝MYFCが今回の処分について不服申立てを行ったとの公式発表は確認されていません。
誤審認定だけでは取り消しにつながらない可能性
今回の処分対象は「ハンドではなかったという判断に従わなかったこと」ではありません。
公開のインタビューを含む審判員への抗議方法が対象です。
そのため、ハンド判定が誤りだったことが判明しても、それだけで「試合後の発言への処分も誤りだった」とはなりません。
不服申立て制度上は処分の再審議や減軽・無効となる余地がありますが、現時点で処分が取り消されると決まった情報はありません。
誤審認定で徳島戦の結果は変わる?再試合になる?
藤枝サポーターにとっては、「本来PKだったのなら0-1という試合結果も変わるのでは?」という疑問もあります。
しかし、2026年10月30日時点で徳島戦の結果を変更したり、再試合を行ったりするとの発表はありません。
Jリーグ公式でも藤枝0-1徳島の結果がそのまま記録されています。
しかも、仮にPKが与えられていたとしても、そのPKが必ず得点になったとは限りません。
今回のJFAによる説明は「当該場面でハンドを取るべきだった」という審判評価であり、試合結果そのものを変更する発表ではありません。
現時点では徳島の1-0勝利が正式な試合結果です。
誤審した審判員には処分がない?扇谷委員長が説明
「監督だけが処分されて、誤審した審判員には何もないの?」という疑問もあります。
扇谷健司審判委員長は、審判員については一つの判定ミスだけを理由に直ちに処分する方式ではないと説明しています。
Jリーグでは各試合でアセッサーが審判員のパフォーマンスを評価。
ミスが繰り返されれば、その後に担当するカテゴリーが変更される場合もあるとされています。
つまり、監督への懲罰と審判員の評価は異なる制度で運用されています。
今回の担当審判員について、懲罰として「○試合停止」といった発表が行われたわけではありません。
J2になぜVARがない?今回のハンド判定なら介入できた可能性
今回の騒動を受け、再び注目されているのがJ2へのVAR導入です。
J1ではVARが運用されていますが、2026/27シーズンのJ2リーグ戦には導入されていません。
今回のようなペナルティーエリア内のハンドは、VARが導入されている大会であればチェック対象となり得ます。
では、なぜJ2にはVARがないのでしょうか。
理由①年間最低6~7億円の費用
Jリーグの窪田慎二執行役員は、J2へ通常のVARを導入する場合、最低でも年間6~7億円ほどの追加費用が必要になるとの見通しを明らかにしました。
全試合に安定した映像環境と人員を用意するため、単純にモニターを置けば済む話ではありません。
理由②J2はカメラ台数が少ない
J1では1試合あたり約12台の中継カメラをVARに利用している一方、J2では3~4台程度の試合もあります。
J1と同じ精度を求めるには、カメラや設置設備を追加する必要があります。
スタジアムによってはVAR用カメラを安定して置ける場所自体がなく、施設改修が必要になるケースもあります。
理由③VARを担当できる審判員が足りない
人員も大きな問題です。
サッカーキングによると、現在VAR資格者は44人、AVAR資格者は31人。
J1とJ2を同時に運用するには、それぞれさらに人数を増やす必要があり、J3を担当する審判員の配置にも影響します。
資格取得にはFIFAが定める研修も必要で、短期間で人数だけを増やせるものではありません。
VARライトもまだ簡単には導入できない
通常のVARより簡易的な「VARライト」やFVS(フットボールビデオサポート)の活用も検討されています。
しかしJリーグ側は、カメラ数を減らせば通常のVARほどの効果が得られない可能性があり、「VARなのになぜ分からないのか」という新たな問題が起きる可能性も指摘しています。
そのため、現時点では検討段階でJ2への導入には至っていません。
槙野智章監督の抗議でJ2の審判問題はどうなる?
槙野監督の発言は処分対象となりましたが、今回の問題をきっかけにJリーグとJFAがレフェリング環境について説明する場を設けたことも事実です。
10月29日のメディアブリーフィングでは、
- プロ審判員の拡大
- 若手審判員の育成
- 海外審判員の活用
- 元選手による審判評価への参加
- VAR導入の検討
- VARライトやFVSの検証
など、今後の改善策が説明されました。
そのため、槙野監督の言葉遣いは規律上問題視されたものの、レフェリング環境そのものに課題がないとJリーグ側が考えているわけではありません。
藤枝MYFCは槙野智章監督の発言について謝罪
槙野監督への処分発表後、藤枝MYFCはクラブとしてコメントを発表しました。
クラブは、審判員、Jリーグ、ファン・サポーター、関係者へ心配と迷惑をかけたとして謝罪。
サッカーは選手・指導者・審判員など多くの関係者によって成り立つとして、互いへの敬意を持った行動を徹底していく考えを示しました。
一方で、レフェリングを含めたより良い競技環境に向け、関係者との対話を重ねていく方針も示しています。
槙野智章監督の抗議と処分で分かっていること
2026年10月24日の藤枝MYFC対徳島ヴォルティス戦で、藤枝の川本梨誉選手がペナルティーエリア内で浮かせたボールが徳島DF田中隼人選手の左腕付近に当たりました。
主審はハンドを取らず、強く抗議した槙野智章監督にはイエローカードが提示されています。
試合は藤枝が0-1で敗れました。
試合後、槙野監督は公開インタビューでJ2の審判員のレベルを厳しく批判しました。
Jリーグ規律委員会は、この言動を「審判員の判定に対する悪質な抗議」と判断。
試合中にも異議による警告を受けていたことや、公開の場で批判を繰り返したことなどを加重要素として、2試合のベンチ入り停止と罰金10万円を科しました。
一方、同じ10月29日にJFAの扇谷健司審判委員長は、問題となったプレーについてハンドと判断すべきだったとして、審判員が正しい判定を導き出せなかったと認めています。
つまり今回のニュースでは、
「ハンドを取るべきだったという槙野監督の指摘はJFA見解と一致した」
一方で、
「その後の審判員への批判方法については規律違反と判断された」
という二つの事実があります。
誤審認定と監督への処分は矛盾しているように見えますが、審査されている対象が違います。
JFAの懲罰規程上、Jリーグによる処分には不服申立ての制度がありますが、2026年10月30日時点で藤枝MYFCや槙野監督が申し立てを行ったとの発表はありません。また、不服申立てをしても処分が自動停止する仕組みではありません。
そのため現状では、槙野監督は10月31日の秋田戦と11月3日の磐田戦でベンチ入りできず、太田吉彰ヘッドコーチが暫定指揮を執ります。
今回の一件は「一つの誤審」だけにとどまらず、J2のレフェリング環境、監督による審判批判の線引き、年間6~7億円ともされるVAR導入費用など、日本サッカーが抱える複数の課題を浮き彫りにする出来事となっています。

